エトキシキンなどの添加物について
正しく添加物を理解する
動物たちの食事を選ぶ際に、「エトキシキン、BHA、BHTなどの添加物は危険!」という記事をインターネットでよく見かけますが、本当にそうなのでしょうか。今回は、犬のエトキシキンを例にお話をしていきたいと思います。
エトキシキンについて
エトキシキンは、ペットフードの抗酸化剤として以外にも、リンゴ・なしの日焼け防止や、殺虫剤などに使用されており、人での一日摂取許容量は体重1kgあたり0.06mg(FAO/WHO)、日本の食品安全委員会では0.005mg。食品衛生法に基づく食品中の残留基準は、リンゴ・梨において3.0ppm以下と設定されています。また、ペットフード安全法においては、犬のエトキシキンの含有量はフード当たり75μg/g以下と設定されています。
どのようにこの量は決定されているのでしょうか。
ペットフード安全法 規格基準等:https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/petfood/standard.html
LOAEL,NOAEL,ADIを知る
人の摂取基準を設定するために、犬やマウスなどの他の種で、どの程度まで毒性が現れないか(NOAEL)、どの程度で毒性が現れるか(LOAEL)の確認を条件を変えて何度も行っています。さらにそこに、安全係数を乗じて人が毎日食べても大丈夫な量(ADI)が設定されています。
これらのデータは、食品安全委員会の評価書で誰でも確認ができるようになっております。
LOAEL:(Lowest Observed Adverse Effect Level:最小毒性量)
ある物質について何段階かの異なる投与量を用いて毒性試験を行ったとき、有害影響が認められた最小の投与量。
NOAEL:(No Observed Adverse Effect Level:無毒性量)
ある物質について何段階かの異なる投与量を用いて毒性試験を行ったとき、有害影響が認められなかった最大の投与量。
ADI:(Acceptable Daily Intake:一日摂取許容量)
ヒトがある物質を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、現在の科学的知見からみて健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量。
食品安全委員会:http://www.fsc.go.jp/
ここからが本題!エトキシキンを例に計算をしてみよう
体重1kgの犬が必要なカロリーは、約100kcalです。
犬のドライフードは、水分を抜いた状態(乾物当たり)でおよそ3500kcal/kgを目安に作られています。
そのため、体重1kgの犬が食べる乾物当たりのドライフードの量は100kcal×1000g/3500kcal=28.57gとなります。
さらに一般的なドライフードには10%弱の水分を含有しています。(ここではわかりやすく10%とする。)
よって28.57/0.9=31.74g
つまり体重1kgの子はおよそ31.74gのドライフードを食べるということがわかります。
ここに、ペットフード安全法に記載のあるエトキシキンの含有量の上限である75μg/gをかけると・・・
31.74×75=2380.5μg≒2.38mg となり。
ペットフード安全法上で体重1kgの子が1日に食べられるエトキシキンの最大量は約2.38mgということがわかります。
ここで食品安全委員会の評価書を見てみましょう。
イヌにおいては、薬物動態、急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性および発がん性、生殖発生毒性の試験が行われています。
特に見るべきは、
90日間亜急性毒性試験(イヌ、経口投与):NOAEL2mg/kg/日
5年間慢性毒性/発がん性併合試験:NOAEL7.5mg/kg/日
2世代生殖毒性試験:LOAEL2.5mg/kg/日
という結果です。
この結果から考えられることは、NOAEL,LOAELの値が近くに存在し、ペットフード安全法で定められている最大量は体重1kgの子にとっては、かなり上限に近い値になっていることがわかります。
そのためなのか、ユーザーのニーズとしてなのか、近年ではエトキシキンを利用したドライフードはほぼ見かけることがなくなりました。
ただし、体重によって大きく解釈は異なります。
毒性量は単位体重当たりで設定されいるため体重に比例していきますが、1日に必要な摂取カロリーは体重に比例しないため、体重が大きな子であれば、単位体重当たりのエトキシキン摂取量は低下します。
例えば、体重10kgの子が必要なカロリーは約550kcalであり、フードの量は、157.14gとなります。水分を10%とすると、製品としての重さは、174.6gになり、ペットフード安全法で許可されるエトキシキンの最大摂取量は13.1mgになり1kg当たりに変換すると1.31mgと計算できます。体重1kgの子と比べるとだいぶNOAELの量までに余裕がある量で設定されていることがわかりますね。
人の場合は、ここから種差や個体差の係数をかけることにより、ADIを設定しているため、より摂取量の上限は下げられています。しかし、種によって毒性の発現量は異なることに注意をしなくてはなりません(もちろんそれも加味して係数をかけているわけではありますが…)。
薬も過ぎれば毒となる。
水も飲みすぎれば水中毒になるように、どんなものでも適量というものが存在します。今回例に挙げたエトキシキンも、本来の目的は食品の酸化を防ぐことであり、NOAEL以下であれば問題ないと考えられる添加物です。
何をもってその量が設定されているのかを考え、論理的に答えを出すことが必要です。やみくもに目につくものすべてを否定していくと何も食べられなくなってしまうなんてことが起こりえるかもしれません。
正しい知識をもって「正しく怖がる」ことが大切ですね。