【飼い主様向け】いつから始める?腎臓療法食
慢性腎臓病のステージ分類(IRIS 2023改定)
いつから腎臓療法食を始めればよいかを知るためには、腎臓がどのような状態であるかを把握する必要があります。慢性腎臓病とは、「持続的に腎臓の働きが悪い」ということの総称であり、その中には多くの病気が含まれます。原因や状況を特定するために、血液検査、超音波検査、レントゲン検査、尿検査、血圧測定などを行います。そこまでしても原因が特定できない場合、時には腎臓に針を刺して、腎臓の組織を取り病理検査にて特定することもありますが、麻酔が必要な検査になる為、特殊な病気が疑われる時以外は、現実的には積極的に行うのが難しい検査ではあります。
IRIS(International Renal Interest Society)は世界的な犬猫の慢性腎臓病のガイドラインを提唱する団体です。このガイドラインは日本を含め多くの国で使用され、一般的に慢性腎臓病のステージを把握するために利用されます。2023年にも改定され、多くの獣医師や飼い主様が腎臓の状態を理解するのに役立っています。
IRIS: http://www.iris-kidney.com/guidelines/staging.html (英語最新版)
IDEXX: http://www.idexx.co.jp/pdf/ja_jp/smallanimal/reference-laboratories/IRIS%20New%20Guideline.pdf (日本の検査会社のサイト)
注意していただきたいのは、慢性腎臓病があってその状況をわかりやすくるためのステージ分類であって、ステージ分類があって慢性腎臓病があるわけではありません。 ガイドラインの改定が行われたからと言って、慢性腎臓病が治ったり、軽くなったりするわけではなく、あくまでも一つの目安です。実際は様々な状況を獣医師が把握し、飼い主様と一緒に治療方法を決定していきます。
一般的にはクレアチニンの上昇やタンパク尿が認められた段階で、腎臓療法食の使用は推奨される(IRIS:ステージ2)
IRISのステージ分類は、クレアチニン(Cre)と呼ばれる一般的に動物病院で測定される項目を中心に決定されます。IRISによるステージ2、つまりクレアチニンの上昇が認められた段階から腎臓療法食は一般的に勧められています。
クレアチニンが上昇した段階で、腎臓の残りの機能は1/3程度と言われています。そのため早期に腎臓の状態を把握するためにSDMA(対称性ジメチルアルギニン)やシスタチンC(IRISの分類では使用されていない)などの検査を行うこともあります。ただし、これらの検査は比較的新しい検査で、国際的には現時点においてクレアチニンの上昇が認められない段階で腎臓療法食を早期に開始することがプラスとして働くかは不明です。むしろ近年では、早期の腎臓療法食の開始は、筋肉が減少しやすくなる可能性等が指摘されているため、マイナスに働く可能性すらあります。少し腎臓の数値が高いからと言って腎臓療法食を始めるのではなく、適切なタイミングで開始する必要があるということです。
また、クレアチニンの上昇とは関係なく尿中にタンパクが認められた段階で、腎臓療法食は推奨されます。
タンパク尿は腎臓に負担をかけ、さらに腎臓の状態を悪化させる危険があります。タンパク質の摂取量を減らすと尿中に漏れ出るタンパクも減ることが分かっている為、タンパクを低減させた食事つまり腎臓療法食を開始する必要があります。
クレアチニンが上昇せず、タンパク尿が認められなければ、どうすればいいの?
IRISのステージ分類には、尿素窒素(BUN)の基準が設定されていませんし、あくまでもステージ分類は目安のため、個々の状態により療法食の開始時期は判断されます。
少なくとも慢性腎臓病が疑われた段階では、高タンパク食・高リン食は避けるべきでしょう。健康な子が食べる総合栄養食の基準にはタンパク上限が設定されていません。ご自宅で与えているフードのパッケージの確認やメーカーへ問い合わせをして、高タンパク・高リンの食事を与えていないかを確認しましょう。可能であれば、総合栄養食の範囲でタンパク・リンが低めのものに切り替えていくことは、将来的に腎臓療法食に切り替える際のストレスを減らせる可能性があります。
腎臓療法食って美味しくないの?
高タンパクのフードや、肉ばかり与えている食生活の子が急に低タンパク食に切り替えるのは困難なことがあります。加えて、腎臓病は進行すればするほど、食欲は低下していくため、さらに食事管理は難しくなってきます。
腎臓療法食は、低タンパク、低塩で美味しくないというイメージが先行してしまい、飼い主様が、食べなくても仕方ないと考え、与えることを諦めてしまう場合があります。また、過剰なトッピングにより腎臓療法食の特性を打ち消してしまっていることもあります。
最近のドライフードは、動物たちがしっかりと食べてくれるよう様々な工夫が施されており、昔の腎臓療法食よりも美味しく作られていると言われています。一般の食事と比べるとどうかと言われると微妙な部分はありますが、食事の切り替えができるか、できないかが、生存期間を左右する重要なファクターとなる可能性があるため、簡単に諦めないでいただきたいと思います。
DC one dishでは、血液検査やその子の状態を把握し、電話相談や、市販療法食選択のアドバイス、好きな食べ物を含めた療法食や総合栄養食のレシピをお作りすることができます。「人間の食べ物しか食べない。」「初期の腎不全(軽度のタンパク制限)に対応した食事を与えたい。」「最後まで美味しく病気と闘いたい。」「複数の病気を持っており何に配慮すればいいのかわからない。」などございましたら、ご相談ください。