【マニアック】食材に含まれるカロリー(日本食品標準成分表2020年版 八訂)

これまでのお話

人では簡易的に、タンパク質4kcal/g 脂質9kcal/g 炭水化物4kcal/g、犬猫たちは、タンパク質3.5kcal/g 脂質8.5kcal/g 炭水化物3.5kcal/gと修正Atwater係数を使用しエネルギーを計算することが一般的であるということは、以前の「食事に含まれるエネルギー量(カロリー)を計算してみよう。(修正Atwater係数とは)」でお話しをさせて頂きました。これらの単位量あたりのエネルギー(カロリー)は、食材に含まれる栄養素の量と、食物の消化率を考えて算出しています。

食物の消化率については、以前「食材のカロリーについて」でお話をさせて頂きましたが、簡単に言うと、人の食品を使ったり、高い消化性の原材料を使うと、昔に算出された消化率よりも、遥かに高い消化率になっているよ、ということです。そして、今回のお話は食材に含まれる栄養素の量についてのお話しになります。

栄養素量は分析法により変化する?

まず、「食材に含まれる栄養素を正確に分析する」ということは非常に難易度が高く、常に真の値を求めるために、検査方法が常に進化しているということを理解しておかなければなりません。そして、同じ栄養素を計測するにしても食材の形状や組成によって、より適しているであろう検査方法の検討や、その検査にかかるコストを計算し分析が行われていることを忘れてはいけません。こういった過程があり、日々新しい検査方法が作られ、検査結果の妥当性を評価し、食材の栄養素を決定していくのです。含まれる栄養素の真の値は誰もわからない中で、真になるべく近い値を常に探っていると言っても良いでしょう。

そんな中で、日本食品標準成分表2020年版においては、人の修正Atwater法からの計算から、『組成ごとのエネルギー換算係数』を用いた算出法へとエネルギー算出の方法が大きく変わっております。どう変化したのかというと、


2015年度 : エネルギー(kcal) =たんぱく質(g)×4 +脂質(g)×9 +炭水化物(g)×4 (+アルコール(g)×7 等)
2020年度 : エネルギー(kcal)=アミノ酸組成によるたんぱく質(g)×4 +脂肪酸のトリアシルグリセロール当量(g)×9 +利用可能炭水化物(単糖当量)(g)×3.75 +糖アルコール(g)×2.4 +食物繊維総量(g)×2 +有機酸(g)×3 +アルコール(g)×7

※ 糖アルコール及び有機酸のうち個別のエネルギー換算係数を適用する化合物等はその係数を用いる
※ 組成の成分値がない場合は、当該成分に対してのみ従来法の成分値による計算で代替する

なんだか、よくわからないですよね(笑)。簡単に言うと、より正確な測定値でカロリーを計算しましょう!ということです。

例えばですが、タンパク質の定量は、以前よりケルダール法や燃焼法という方法を使い測定しており、食材に含まれる窒素量から、窒素・タンパク質換算係数を使い、タンパク質量を割り出していました。これらの分析方法は、窒素を含むタンパク質以外の物質(核酸やカフェインなど)も測定してしまうというデメリットがあります。そのため、2020年度版ではアミノ酸それぞれを定量して、その合計を「アミノ酸組成によるたんぱく質」として計算をする新しい方法が取り入れられ、精度が高められています。脂質に関しても同様のことが言えます。この変化はエネルギー計算の概念が変わる、と言われるほど大きな変化になっています。

炭水化物と食物繊維は、なかなか大きく変わっている。

炭水化物

2020年度のデータベースにおいては、炭水化物は
・利用可能炭水化物(単糖当量)
・利用可能炭水化物(質量計)
・差引き法による利用可能炭水化物
・炭水化物
と実は炭水化物だけでも4つの数値があります。

従来の犬猫の炭水化物の計算に最も近い算出方法は、「炭水化物」と表記されている従来の差し引き方によるものですが、炭水化物に含まれるそれぞれの栄養素そのものを測定し、それを合算したより精度を高めた方法が利用可能炭水化物(質量計)で、それを単糖に換算した(水分子をくっつけた)ものが(単糖当量)になります。差し引き法による利用可能炭水化物は、炭水化物と利用可能炭水化物(質量計)の計算方法の真ん中のような計算方法で、基本的にアミノ酸組成によるたんぱく質や脂肪酸のトリアシルグリセロール当量を利用し、算出されます。差し引き法による利用可能炭水化物は、利用可能炭水化物(質量計)の数値が収録されていないか、評価基準外(精度が低い)の場合には、エネルギー換算に使用されます。

つまり人では従来の炭水化物量の測定や、それを利用したエネルギーの算出方法は、極力使用しない方向へ進歩しているのです。

食物繊維

人では、動物ではよく使われる粗繊維と呼ばれる測定方法(あえて測定方法と言っておきます)は、ずっと昔から使用されていません。この測定方法では、セルロース、ヘミセルロース、リグニンの一部しか測定ができず、食物繊維を測定する方法としては適切ではない方法です。

「食物繊維の定義」はどこまでを食物繊維とするのかが、世界的には未だに確定されていないのが現状です。そのため、測定方法によって、分類の名前が決まっているような側面もあり、非常にややこしい状況が続いています。2015年版までの測定方法に関しては、酵素-重量法や酵素-HPLC法を利用し食物繊維を測定し、不溶性食物繊維・水溶性食物繊維の分類が行われてきましたが、レジスタントスターチなどの一部低分子水溶性食物繊維の測定ができておらず、2020年版では、それらを測定できるAOAC2011.25の方法が採択されました。その結果、食材によっては、食物繊維の数値が2015年版から2020年版では倍増するような現象が起き、また分類も「低分子水溶性食物繊維」「高分子水溶性食物繊維」「不溶性繊維」「難消化性でん粉」「食物繊維総量」と変わっています。

食品分析に終わりはない

なぜ、こんなにも人の食材の分析が大きく変化したかというと、FAO/INFOODS(国際連合食糧農業機関/食品データシステム国際ネットワーク)が、より精度の高い新しい方法を推奨し始めたからです。日本食品標準成分表はまだまだ新旧の検査方法が入り乱れる状態での掲載となっておりますが、日本も世界的な基準に沿い、今後古い測定方法は利用されなくなっていくと考えられます。

分析方法の進化により、食材に含まれる真の栄養素の量に近づいていくことは、非常に大切なことです。ぜひ、その数値の意味や、裏で測定をしている人たちの想いを胸にありがたーーく利用したいですね。

さてこれをどうやって動物たちに利用していくかは、また次の機会に。

詳しく知りたい方は↓

食品標準成分表2020年版 八訂
日本の成分表示に見合う食物繊維定量法はどうあるべきか?現状と将来展望
食物繊維の定量法 -定義と定量法の変遷-
たんぱく質の分析方法ついて

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