リフィーディング症候群って知っていますか?
リフィーディング症候群とは…
慢性的な栄養欠乏状態(飢餓)への栄養投与を行うことにより生じる、細胞内への水分や電解質移動に伴う重篤な合併症を起こす病態の総称をいいます。
戦国自体の話になりますが、戦で兵糧攻めをよく用いていた豊臣秀吉が、降伏してきた敵兵に対し、粥を与え、敵兵が大量に食べた結果、生存した敵兵の過半数がこのリフィーディング症候群で死んでしまったと言われています。降伏してきた敵兵に恵んだ栄養が、逆の結果を招いてしまったことで、豊臣秀吉はリフィーディング症候群のことを学んだ(実は知っていた)と言われています。
リフィーディング症候群の病態生理
食事を摂ることが出来なくなってすぐは、肝臓のグリコーゲンを分解しエネルギーを得ますが、肝臓に貯蔵するグリコーゲンはすぐ底をつき、脂肪組織から脂肪酸を動員し始めます。残り少ないグルコースは脳に使われていきますが、それでもエネルギーが足らない場合は、筋肉を分解し糖新生を行うようになります。
最終的にはグルコースがどうやっても作れなくなり、脂肪組織からの遊離脂肪酸を放出しβ酸化することによりケトン体を生成し、脳へのエネルギーを獲得するようになります。糖新生の低下やインスリン分泌の低下、基礎代謝の低下もみられるようになります。
- 飢餓の状態になると、当然のことながら体全体としてビタミン、ミネラルを含む栄養素が不足していきます。そこに突然大量の食事(エネルギー)がやってくると、メインで消費するエネルギー源がグルコースへシフトチェンジし、細胞内では糖代謝が起こります。糖代謝に伴い、アデノシン三リン酸(ATP)や2.3ホスホグリセレート(2.3-DPG)産生に必要なリンを細胞内に取り込むことで、低リン血症を引き起こします。(⇒白血球の走化性や貪食能、血小板凝集能の低下)一方、血管内で解糖系を持つ唯一の細胞である赤血球では、血中のリンが不足している為リンが使えなくなり、ATPの産生減少、Na+-K+ポンプが誤作動を引き起こし、溶血が起こります。
- インスリンの分泌が亢進することにより、細胞内にカリウムが取り込まれ、低カリウム血症を引き起こします。
- 酸化的リン酸反応などの多くの補因子であるマグネシウムの消費が起こり、低マグネシウム血症が引き起こされます。(⇒不整脈、心機能低下)
- インスリンは腎臓におけるNaや水の分泌抑制を起こします。(⇒浮腫)
- ピルビン酸からアセチルCoAの変換に必要なピルビン酸脱水素酵素とクエン酸回路を回すために必要なα-ケトグルタル酸脱水素酵素の補酵素であるビタミンB1の欠乏も起こります。
リフィーディング症候群は多様な病態を示し、上記以外にも高血糖、呼吸症状、発作、肝機能低下など様々な合併症を引き起こします。
※猫では、低リン血症により赤血球が低ATPになるとグルタチオンが減少し、二次的にハインツ小体形成を引き起こしやすいため、溶血は重症化しやすいようです。人と犬では、赤血球2,3-DPGの減少によりヘモグロビンの酸素親和性が高くなり、組織への酸素提供の低下(組織の低酸素化)に寄与するとのことです。また、赤血球が低ATPになることで赤血球膜が脆弱化し、溶血が生じます。
ちなみに低栄養状態で急激なエネルギー摂取をした場合、猫では高血糖になりやすいと言われますが、犬では高血糖はまれと言われています。
リフィーディング症候群を防ぐ
一般的にはまず3-5日後にRER(安息時エネルギー)を摂取することを目標し、ゆっくりと食事(または静脈栄養)を開始をし、定期的に電解質、リン、グルコース、マグネシウムのモニタリングを行い、補正を行う必要があります。ビタミンB群については、先んじて投与を行っておくことが推奨されます。
下記文献に犬と猫の補正の仕方の記載があります。
HYPOPHOSPHATEMIA AND REFEEDING SYNDROME
人医療では、血液検査上のモニタリングの検査項目として
CBC,Na,K,Mg,P,Ca,Alb,Bun,Cre,肝機能酵素,Glu,Fe,フェリチン,葉酸,ビタミンB12を測定することが提唱されていたりします。
パーミッシブアンダーフィーディング(permissive underfeeding)とは?
消費エネルギーには個体差があるため、各個体が消費するカロリーちょうどぴったりを計算で算出することは現実として不可能です。そのため、実際にはオーバーフィーディング(過栄養)か、アンダーフィーディング(低栄養)の状態で維持管理をしていることとなります。人のほうでは、重症患者において、初期1週間は消費エネルギーよりも、投与するエネルギーは軽度に少ないほうが予後が良いというエビデンスがあり、現在では推奨されています。
上記のようなエビデンスの背景にはオートファジーが関与していると言われています。オートファジーは、いわば細胞内の掃除屋で、ストレス因子で誘導されたタンパク凝集体、酸化脂質、障害を受けた細胞小器官、細胞内病原体を分解する役割を担っております。グルコースやアミノ酸、インスリンはオートファジーの機能を抑制する因子であるため、過栄養は細胞障害や微生物の処理・除去が正しく行われず、感染の助長や臓器障害の回復遅延が誘発されていると推測されています。そのため推定される消費されるエネルギーよりも、やや少ないエネルギーを投与するpermissive(寛容な、許容する)underfeeding(低栄養)が行われるわけです。
「及ばざるは過ぎたるより勝れり」
この言葉は、孔子の論語「過ぎたるは及ばざるが如し」を踏まえた徳川家康の遺訓です。
足りていないからと言って、大量に与えればよいというわけではないということを豊臣秀吉から徳川家康も学んだのかもしれませんね。
参考
・https://rekijin.com/?p=32386
・https://med.antaa.jp/refeedingsyndrome_tyugai
・https://qq8oji.com/pg-report/843
・http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-tsukuba-150205.pdf
・http://www.jseptic.com/journal/cat18.html
・https://med.antaa.jp/refeedingsyndrome_tyugai
・http://www.jseptic.com/journal/cat18.html
・https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssmn/50/2/50_111/_pdf