煮干しは悪者か?
診察室でよくあるお話
尿検査でストルバイトと呼ばれる結晶が見つかりました。
今、どんなお食事を食べていますか?
A社の総合栄養食とトッピングに毎日煮干しを与えています。骨を丈夫にしたくて。
今すぐ煮干しを止めてください。煮干しはストルバイトの原因となるマグネシウムが豊富に含まれています。今後マグネシウムの多い食品は控えて、水分を多く摂取してください。
上記のような会話が、診察室ではよく繰り広げられます。煮干しはカルシウムが豊富で体に良いと考えてあげている飼い主様が意外と多くいます。ペットショップなどでも煮干し製品の取り扱いが多くあり、あたかもあげるのが普通のような感覚に陥ってしまうのだと思います。煮干しにはカルシウムだけでなく、マグネシウムやリンが豊富な食材です。結果、カルシウムだけでなくマグネシウム、リン過多になり、ストルバイト尿石症を引き起こしてしまうことがあります。このような状態を放置しておくとストルバイト結晶が膀胱粘膜を傷つけ膀胱炎となり、結晶が結石となりさらに悪影響を及ぼします。
基本的に総合栄養食は、それと水だけで健康を維持できるように設計されています。そこに何かを足すことにより、バランスが乱れてしまい、栄養素の不足や過剰が出てきてしまうことがあります。トッピングする際は、しっかりと計算を行うか、せめて食材をローテーションしないと、持続的な不足や過剰に陥り、問題を生じてしまうことがあります。
ちなみに総合栄養食の元となったAAFCOでは1997年の基準にあった犬のマグネシウム上限が、2016年の基準では撤廃されています。そのため、新しいAAFCOの基準に沿ったフードの場合マグネシウムが大量に含まれている可能性がある為、注意しましょう(通常はマグネシウム量が調整してありますが、中には多く含まれたものもあるかと思います)。煮干しのトッピングなど、食材の特徴が明確な場合は注意しやすいですが、フードの栄養組成は数字でしか判断ができないため、尿石症の疑いがある子の場合はより注意深く確認することが重要です。
手作り食の場合、煮干しは頼もしい味方でもある。
手作り食の観点からみると、煮干しはカルシウムとリンのバランスが良く、優秀な食材です。
犬の場合、総合栄養食はカルシウムとリンのバランスが基準値として設定されています。
そのバランスをちょうど良く兼ね備えているのが煮干しなのです。
手作り食で、お肉を使うことって多いですよね。
カルシウムとリンのバランスで考えると、実はお肉には大きな欠点があります。
牛ヒレ肉の場合、100gあたりリンは180mgに対し、カルシウムは3mgしか含まれていません。
お肉ばかりの手作り食にしてしまうと「圧倒的にカルシウムが不足し、リンが過剰になってしまう」ということです。
もちろん、お肉にも良い点は沢山あります。
何よりもお伝えしたいことは、この食材が良い!悪い!ではなく、やっぱりバランスが一番大切だということです。